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旭川地方裁判所 昭和43年(行ウ)18号 判決

原告 椎名安久 外二一名

被告 紋別市

主文

1  被告は、原告等に対し別表2(認容額一覧表)の「時間外勤務手当金」欄記載の金員及び「附加金」欄記載の金員の合計額並びに前者の金員に対する昭和四三年八月一五日(ただし、原告川崎については同年四月六日)から、後者の金員に対する本判決確定の日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告等のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告等

1  被告は、原告等に対し別表1(時間外勤務手当金一覧表)の「請求額」欄記載の金員の倍額およびこれに対する昭和四三年八月一五日(ただし、原告川崎については同年四月六日)から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告等の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告等の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙(一)原告目録の番号1ないし9の原告九名は、被告が学校教育法二条にもとづき設置した渚滑中学校の教職員であつて、その勤務時間は一週間につき四四時間であり、その割振りは平日において午前八時から午後四時までとされているところ、右原告等は、別表1(時間外勤務手当金一覧表)の「年月日」欄記載の年月日に、「時間」欄記載の時間、同中学校において学校長の指示により「内容」欄記載の勤務をし、時間外勤務を行なつた。

2  別紙(一)原告目録の番号10ないし22の原告一三名は、被告が学校教育法二条にもとづき設置した潮見中学校の教職員であつて、その勤務時間は一週間につき四四時間であり、その割振りは四月から九月までの間は平日において午前八時五分から午後四時五〇分まで、一〇月から三月までの間は午前八時二五分から平日は午後五時一〇分まで、土曜日は午後零時二五分までとされ、日曜日は勤務を要しない日であるところ、右原告等は、同表の「年月日」欄記載の年月日に、「時間」欄記載の時間、同中学校およびその他の場所において学校長の指示により「内容」欄記載の勤務をし、時間外勤務を行なつた。

3  市町村立学校教職員給与負担法一条によれば、市町村立学校の教職員の給料その他同法に規定する諸手当は都道府県においてその支払義務があるが、時間外勤務手当については当該学校の設置者たる市町村にその支払義務がある、したがつて、被告は、原告等の右時間外勤務に対して労働基準法三七条一項によつて時間外勤務手当を支給する義務があるが、未だにこれを支払わない。

4  原告等の当時の一か月の本俸は、それぞれ同表の「本俸」欄記載のとおりであり、法令により計算した時間外勤務手当の一時間当りの額は、それぞれ同表の「単価」欄に記載のとおり(二行に記載した分は*印の付されていないもの)である。

5  そこで、原告等は被告に対し、同表の「請求額」欄記載の時間外勤務手当金および労働基準法一一四条によるこれと同額の附加金の合計額およびこれに対する本訴状送達の日の翌日たる昭和四三年八月一五日(ただし、原告川崎については同年四月六日)から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、2の事実中、学校長が原告等に対し時間外勤務を指示したとの点は否認する。原告等主張の時間外勤務をした時間についての認否は、別表1(時間外勤務手当金一覧表)の「認否」欄に記載のとおりである。その余の事実は認める。

2  同3の事実については、被告が原告等の時間外勤務に対し、時間外勤務手当を支給しなかつたことは認めるが、その余は争う。

3  同4の事実については、一部の原告等にかかる法令により計算した時間外勤務手当の一時間当りの額が同表の「単価」欄に*印を付した金額であるほかは、全部認める。

三  被告の主張

別紙(三)のとおり

四  被告の主張に対する原告等の反論

別紙(四)のとおり

第三証拠〈省略〉

理由

一  別紙(一)原告目録の番号1ないし9の原告九名が、被告が学校教育法二条にもとづき設置した渚滑中学校の教職員であつて、その勤務時間は一週間につき四四時間であり、その割振りが平日において午前八時から午後四時までとされていること、別紙(一)原告目録の番号10ないし22の原告一三名が、被告が同法条にもとづいて設置した潮見中学校の教職員であつて、その勤務時間は一週間につき四四時間であり、その割振りが四月から九月までの間は平日において午前八時五分から午後四時五〇分まで、一〇月から三月までの間は午前八時二五分から平日は午後五時一〇分まで、土曜日は午後零時二五分までとされ、日曜日は勤務を要しない日であること、原告等が別表1(時間外勤務手当金一覧表)の「年月日」欄記載の年月日(原告椎名、同玉川、同小山、同阿部芳子の昭和四二年四月一二日分を除く。)に、その勤務をした時間についてはしばらくおき、右各学校およびその他の場所においてそれぞれ「内容」欄記載の勤務をし、時間外勤務を行なつたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右除外分については、当該原告等主張の事実を認めるに足りる証拠がない。

そこで、まず原告等が勤務をした時間について検討する。

1  原告番号1から9までの原告九名の時間外勤務(前記除外分を除く。)および原告川崎の昭和四一年四月四日、六月三日、七月二一日、九月一四日、一一月一九日、昭和四二年一〇月二七日の時間外勤務(いずれも職員会議)の時間が同表の「時間」欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いがない甲第二、第九号証、原告川崎本人尋問の結果によると、原告川崎の昭和四一年七月一七日の時間外勤務(市中体連体育大会)の時間は同表の「時間」欄記載のとおりであることが認められる。

3  右甲第九号証、右本人尋問の結果によると、原告川崎、同原田、同高田、同豊島、同長崎、同阿部が昭和四二年一月二二日にした時間外勤務(市中体連スケート大会)の時間は同表の「時間」欄記載のとおりであることが認められる。

4  成立に争いがない甲第一号証、右甲第九号証、右本人尋問の結果によると、原告川崎、同小田島、同高田、同長崎、同阿部、同土居が同年七月二日にした時間外勤務(市中体連駅伝大会)の時間は同表の「時間」欄記載のとおりであることが認められる。

5  成立に争いがない甲第三号証、右甲第一、第九号証、右本人尋問の結果によると、原告番号10ないし22の原告一三名が同年七月一六日にした時間外勤務(市中体連体育大会)の時間は同表の「時間」欄記載のとおりであることが認められる。

6  成立に争いがない甲第四号証、右甲第一、第九号証、右本人尋問の結果によると、原告番号10ないし22(17を除く。)の原告一二名が同年八月二〇日にした時間外勤務(四地区中体連ソフトボール大会)の時間は同表の「時間」欄記載のとおりであることが認められる。

7  成立に争いがない甲第五、六号証、右甲第一、第九号証、右本人尋問の結果によると、原告番号10ないし22(13、17、19を除く。)の原告一〇名が同年九月一〇日にした時間外勤務(市中体連陸上競技大会)の時間は同表の「時間」欄記載のとおりであることが認められる。

8  以上2ないし7の認定に反する証拠はない。

二  右認定の時間外勤務につき、原告等は学校長の指示によるものであると主張し、被告はこれを否認して、原告等の自発的意思にもとづく奉仕行為であつて、時間外勤務手当の対象となる勤務ではないと主張するので、以下この点につき判断する。

(職員会議関係)

成立に争いがない甲第一〇号証および弁論の全趣旨によれば、次のような事実が認められ、この認定を左右する証拠はない。

すなわち、職員会議は、一般に市町村立の小・中学校において、戦前から定期的にまた必要に応じて臨時的に開催されてきたものであり、学校長、教頭および出席した教職員の中から選出された者が議長となつて、(イ)学校運営に関する事項、例えば年間教育計画の樹立、学校予算の配分、校務分掌の分担の問題、(ロ)校長からの指示連絡、(ハ)教職員相互間の報告、連絡等の議題について、討議検討あるいは伝達がなされ、さらには必要に応じて重要議題については決議も行なわれ、会議の経過および結果は職員会議録に記録されていた。職員会議の開催については、あらかじめ黒板等を利用して明示的ないし黙示的に校長または教頭から通知がなされることが殆んどであり、職員会議には、支障のある者を除いてすべての教職員が出席し、会議の途中で公私の所用で退席する者もいたが、その場合でも、退席者は学校長に理由を告げて退席の承認を求め、学校長の承認を得たうえで退席するのが普通であつて、格別の理由がないのに会議に欠席したり、中途退席する者はいなかつた。職員会議が開催される時刻は、大体において授業の終了したいわゆる放課後であつて、通常午後三時三〇分ないし四時ごろであり、一方終了時刻は一定せず、会議の内容によつては、当日の勤務時間を過ぎることがあり、時には夕食をとりながら会議を継続したこともあつた。しかして、職員会議において討議、議決された事項は、そのまま学校長を拘束するわけではないが、実際には、学校長は会議の結果を尊重して学校運営を行なつており、職員会議の右のような実情は、全国の市町村立小・中学校において、古くから殆んど共通していたものである。

以上の認定事実と道内の各市町村教育委員会が制定した各市町村立学校管理規則六条の「校長は、校務の運営上必要があるときは職員の会議を開き、所属職員の意見を求めて適正な学校運営に努めなければならない。」との規定とをあわせて考えると、学校における職員会議は、形式的には学校の校務を掌理する学校長の諮問機関たる性格を付与されているが、実際上は学校運営のための議決機関として重要な役割を果しているものと考えられ、それ故学校長も職員会議の有するこのような役割を重視して教職員に出席を促し、各教職員の意見を聞き、会議の結果を尊重して学校の運営にあたつているものと認められる。そうすると、教職員が職員会議に出席することは、自己の職務の遂行上必要不可欠のものであり、教職員にとつてその職務行為の一部に属するものというべく、しかも会議への出席は学校長の明示ないし黙示の命令にもとづくものとみるのが相当である。そして、渚滑中学校、潮見中学校における職員会議が、前記認定の職員会議の一般的な実情と異なるものであり、その出席が自発的意思にもとづく奉仕行為であることを認めるに足りる証拠のない本件にあつては、原告番号1ないし10の原告一〇名の職員会議への出席による時間外勤務は、時間外勤務手当支給の対象になるものといわなければならず、被告の主張は理由がない。

(中体連大会関係)

前記甲第一号証から第九号証まで、証人吉田昌隆の証言(後記信用しない部分を除く。)、原告川崎本人尋問の結果を総合すると、次のような事実が認められ、この認定に反する右証言の一部はたやすく信用することができず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

道内の各地区にある中体連(中学校体育連盟)は、スポーツを通じての学校教育の振興と発達を図るための学校相互の連絡協議を行なうと共に、各種大会の開催により技術の向上と親睦を期することを目的とした団体であつて、紋別地方には、同地方の四ブロツクの中学校をもつて構成する紋別地区中体連と紋別市立の中学校をもつて構成する紋別市中体連があり、各種の大会を開催していたほか、網走管内の四地区の中体連が連合して開催する各種の大会も行なわれていた。中体連には管下の中学校が殆んど加盟していて、保健体育担当の教職員が役員となつて会の運営に当り、財源は負担金、大会参加料等によつてまかなわれ、各中学校では通常PTA会費や生徒会費等の一部をもつてこれにあてていた。

中体連の主催する各種の大会の開催については、関係市町村の教育委員会も共催あるいは後援をしていた。大会は昭和四一、二年当時は日曜日に開催されていたが、日程が決められると、各中学校では職員会議を開いて参加を正式に決定し、学校長から教育委員会へ参加の旨を報告することが義務づけられていた。大会の運営に当る教職員とその担当役割も右職員会議で同時に決定されていたが、自校のグランドが会場となる当番校の場合には、会場の設営等の諸準備を含めて、原則として全部の教職員が大会の運営に当るのが普通であつた。一方、大会に選手として出場する一校当りの生徒の数は種目によつて異なり、選手の少ない種目では一〇名内外であつたが、陸上競技の場合には一〇〇名以上を数えていた。そして、出場選手は各中学校のクラブ活動としての運動部に所属する生徒が主であり、大会の参加はクラブ活動の延長としての一面もあつたが、小規模の中学校でも練習と努力次第では優勝の機会が得られるので、その教育的効果は教職員間でかなり大きく評価されていただけでなく、文部当局においても、従来から対外的運動競技の教育的意義を認めて、各中学校に対し参加を奨励し、特に教育委員会が主催、共催または後援する対外的運動行事については積極的に参加するよう指導していた。

右認定事実によると、教職員が中体連大会の運営に当ることは、生徒の大会参加が中学校学習指導要領(昭和三三年一〇月一日文部省告示)に定められている特別教育活動としてのクラブ活動(生徒会活動としてのそれを含む。)と密接不可分の関係にあり、教育的価値も大であるから、教職員の本来の職務の一部に属するものというべきであり、運営に当る教職員が学校長の諮問機関たる職員会議によつて決定されているものである以上、学校長の指示に基づくものといわなければならない。従つて、大会の開催日の関係等のため勤務時間外に大会の運営に当ることがあつても、これを教職員の自発的奉仕行為ということはできない。

三  次に、市町村立学校の教職員については、仮に時間外勤務がなされても時間外勤務手当を不要とする事実たる慣習があるから、原告等の本訴請求は許されないとの被告の主張について検討する。

労働基準法は、一日の労働時間について八時間制の原則(三二条一項)をとりつつ、その例外として時間外労働を一定の要件のもとに許容する(三六条)一方、この要件を具備しない違法な時間外労働については、これをなさしめた使用者を処罰する(一一九条一号)ことによつて、違法な時間外労働が行なわれないよう制度的措置を講じているが、同時に適法な時間外労働についても、割増賃金の支払い(三七条一項)を使用者に罰則づき(一一九条一号)で義務づけることによつて、採算の面から間接的に無制限の時間外労働が行なわれることを防止しようとしており、これらの規定は、地方公務員である市町村立学校の教職員についても適用される(地方公務員法五八条三項)。これらの規定から明らかなように、労働基準法は、労働者保護のため、時間外労働をさせることを使用者に対し極力制限しているのであるが、被告主張の事実たる慣習に効力を認めるときは、同法の法意を無視することになるのは明白であるばかりでなく、刑罰をもつて違法な時間外労働が行なわれることを防止しようとしている同法の規定を脱法的に潜脱することになつて、到底是認することができない。したがつて、仮にそのような慣習が存在するとしても、公の秩序に反する無効な慣習といわなければならず、被告の主張はそれ自体失当である。

四  以上のように、被告の主張は理由がないことに帰し、原告等は本訴請求にかかる時間外勤務手当の請求権を有するものといわなければならない。そして、市町村立学校の教職員に対する時間外勤務手当は、市町村立学校職員給与負担法一条に列挙された給与項目に含まれず、当該学校の設置者たる市町村において負担すべきものであるから、被告は、原告に対し右時間外勤務手当を支払う義務がある。そこで、本訴請求額について判断する。

1  まず、原告等の本件時間外勤務(ただし、原告椎名、同玉川、同小山、同阿部芳子の昭和四二年四月一二日分を除く。)の時間が別表1(時間外勤務手当金一覧表)の「時間」欄に記載のとおりであることは、先に認定したとおりである。

ところで、労働基準法三七条の割増賃金支給の対象となる時間外勤務とは、同法三二条または四〇条所定の労働時間をこえたものをいうから、法定時間より短い勤務時間の定めがされている場合には、これをこえて勤務をしたとしても、法定時間の範囲内においては、割増賃金支給の対象とはならず、右勤務に対して通常の賃金による時間外勤務手当を請求できることは格別として、割増賃金の請求権はないものというべきである。そして、原告川崎の昭和四一年一一月九日の勤務は、法定時間内の勤務であることが明らかであるから、右勤務にかかる同原告の本訴請求は、割増賃金の請求としては失当であるが、割増賃金の範囲内で通常の賃金を請求する意思があるものと解されるので、通常の賃金による時間外勤務手当請求として取り扱うこととする。

しかして、原告等の当時の本俸が同表の「本俸」欄に記載の額であることは当事者間に争いがないところ、右本俸に基づき法令により計算した時間外勤務手当(割増賃金)の一時間当りの額(以下「単価」という。)が、後記の一部の原告等の関係を除き、同表の「単価」欄に記載の額であることも当事者間に争いがなく、原告玉川、同小山の本俸三万四、三〇〇円に対する単価が二二五円、原告玉川、同小山、同土居の本俸三万六、二〇〇円に対する単価が二三七円、原告阿部芳子の本俸二万八、六〇〇円に対する単価が一八八円、本俸三万〇、九〇〇円に対する単価が二〇三円、本俸三万二、六〇〇円に対する単価が二一四円、原告畑中の本俸六万五、五〇〇円に対する単価が四三〇円、本俸七万〇、四〇〇円に対する単価が四六二円、原告小田島、同横田の本俸五万五、三〇〇円に対する単価が三六六円、原告笹木の本俸四万七、五〇〇円に対する単価が三一一円、原告阿部香徳の本俸三万五、五〇〇円に対する単価が二三三円となること、なお、原告川崎の前記通常賃金請求分については、法令により計算した通常賃金の一時間当りの額が二一八円となることは計算上明白である(ただし、五〇銭未満は切捨て、五〇銭以上は一円とした。)。

してみると、原告等の本件時間外勤務手当金は、各原告ごとに別表2(認容額一覧表)の「時間外勤務手当金」欄記載の額になるから(なお、計算上、原告畑中の昭和四二年七月一六日分については二、一五〇円、八月二〇日分については一、八四八円、九月一〇日分については四六二円、原告小田島、同横田の同年八月二〇日分については一、四六四円、原告小田島の同年九月一〇日分は三六六円であるが、請求の範囲に止める。)、原告等の本訴請求は正当(原告椎名、同玉川、同小山、同阿部芳子、同川崎、同笹木、同土居については右の限度で正当)である。

2  次に、附加金の請求について考えるに、前記の通常賃金による時間外勤務手当の請求分(原告川崎)に関しては、使用者に附加金の支払義務がないことが法文上明らかであるから、これについての請求は主張自体失当であるが、その余の分に関しては、被告が原告等に対し本訴による附加金の請求がなされるまでに本件時間外勤務手当を支払つていないことは当事者間に争いがないので、当裁判所は、労働基準法一一四条により、被告に対し附加金として別表2(認容額一覧表)の「附加金」欄記載の金員を原告等に支払うことを命ずることとする。従つて、原告永沢、同佐藤、同寺内、同矢田、同鈴木、同畑中、同小田島、同横田、同原田、同高田、同田口、同豊島、同古屋、同長崎、同阿部香徳の請求は正当であるが、その余の原告等の請求については、右の限度で正当、その余は失当である(ちなみに、附加金は未払いの時間外勤務手当金と同額とされているが、原告畑中、同小田島、同横田については、前記のような計算額よりも請求額が少ないため、いずれの額を基準として附加金の支払いを命ずべきかが問題となり得るところであり、この点に関し、附加金の請求については後記の支払義務発生の態様に鑑み、未払いの時間外勤務手当金の額ないしはその計算根拠のみを主張すれば足り、附加金としていくらの請求をするかを明示する必要はないとの見解も成り立つが、当裁判所としては、金員支払いの請求である以上、請求額の明示を要し、裁判所もこれに拘束されるものと解する。)。

なお、附加金に対する遅延損害金の請求について考えるに、附加金の支払義務は、労働者の請求により裁判所がその支払いを命ずることによつて初めて発生するものと解すべきであるから(最判昭和三五年三月一一日、民集一四巻三号四〇三頁参照)、裁判所が支払いを命じた判決が確定した日の習日から遅滞に陥るものといわなければならない。

五  以上のとおり、原告等の本訴請求は、被告に対し別表2(認容額一覧表)の「時間外勤務手当金」欄記載の金員及び「附加金」欄記載の金員の合計額並びに前者の金員に対する本訴状送達の日の習日であることが記録上明らかな昭和四二年八月一五日(原告川崎については同年四月六日)から、後者の金員に対する本判決確定の日の習日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言についてはこれを付さないのが相当であると認めて、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木敏行 上野茂 井上弘幸)

別紙(一)、(二)〈省略〉

別紙(三)(被告の主張)

1、原告主張の勤務は、原告の自発的意思にもとづく奉仕行為であり、時間外勤務手当支給の対象となる勤務ではない。

2、仮に、原告主張の勤務が時間外勤務手当支給の対象となるとしても、市町村立学校の教職員については時間外勤務手当を不要とする事実たる慣習があるから、原告には時間外勤務手当請求権はない。

すなわち、市町村立学校の教職員は、一般公務員に比較して俸給面において優遇されているほか、その出退勤は比較的自由とされ、学校の休業期間の大半は、自宅研修の名目下に、自宅その他勤務場所以外で十分な休養をとりうる実情にあつたため、かかる勤務実態と引き換えに時間外勤務手当を不要とする時間外勤務を行なつてきた。そして、この時間外勤務手当を不要とする慣習は昭和二二年以来全国の各市町村立学校に共通して広く行なわれてきたから、この慣習は当然事実たる慣習の成立要件を充足するものであり、またかかる慣習自体なんら公の秩序に反するものでもなく、しかも原告および被告において右慣習による意思を有していたのであるから、原告の本訴請求は右慣習の存在により許されない。

別紙(四)(被告の主張に対する原告の反論)

(職員会議関係)

学校における職員会議は、長年にわたる慣行として定期的に、また必要に応じて開催され、右会議には学校長、教頭および校務のため支障ある者を除くすべての教職員が出席し、校長、教頭または教職員の中から選出された者が議長となつて、(イ)学校運営に関する事項、(ロ)教育内容の討議、(ハ)校長からの指示連絡、(ニ)教職員相互間の報告連絡、(ホ)学校行事、生徒の生活指導、校務分掌、クラブ指導分担および対外競技参加、などの議題についての討議決定が行なわれ、会議の経過および結果は職員会議録に記録されている。

このように、職員会議は、終局的には学校長の掌握のもとに開かれる学校の運営、児童・生徒の教育を円滑かつ効果的に行なうための必要不可欠な重要機関であつて、教職員は右会議に出席しなくては自己の職務遂行上に多大の支障を来たすこととなる。したがつて、右会議に出席することは当然に教職員の職務の一部に属し、しかも、出席は学校長の明示または黙示の命令によるものであるから、これを自発的意思にもとづく奉仕行為というのはあたらない。

(中体連大会関係)

(一) 根拠と目的

保健体育的行事の一環たるいわゆる対外競技(例えば中体連・高体連の各種行事)は、教頭の職務である「教育を掌ること」具体的には教育課程の中の「学校行事等」にあたるものであるが、内容においては、特別教育活動としての「クラブ活動」と同質のもので、その延長としての側面をももつている。学校行事は、学習指導要領によると、各教科、道徳および特別教育活動とあいまつて学校教育の目的達成のため、学校が計画し実施する教育活動であつて、生徒の心身の健全な発達を図り、あわせて学校生活の充実発展に資することとされており、儀式、学芸的行事、遠足、修学旅行などとともに保健体育的行事が挙げられている。学校行事の指導計画作成、指導にあたつては、学校が計画し、実施するものであるが、生徒に自主的な協力をさせるようにし、特に特別教育活動(本件でいえばクラブ活動)との関連を図り、地域社会の要請や教育的価値を十分検討し、集団行動における規律的態度を育てることに配慮するようにしなければならないとされている。なお、保健体育的行事の中には、学校が対内的(校内的)に行う体育会、運動会、競技会などのほかに、対外競技会(対外試合)があるが、この対外試合への参加も学校行事の一部として年間指導計画の中に繰り入れられており、具体的に参加する場合は、人員、日時、指導教師などについて職員会議等の議を経て校長の承認のもとに参加している。

(二) 対外競技における教師の職務

対外競技は、文部省も認めるように「教育的に企画運営される場合、生徒の心身の発達を促し、公正にして健全な社会的態度を育成するためのよい機会となり、教育効果はきわめて大きい」ものである(昭和三六・六・一〇文体体一三九通達)。しかして、対外運動競技の参加については、前記のように学校行事の一環として、職員会議の議を経て校長の承認のもとに引卒教師が生徒とともに参加するものであり、それが教師の職務であることはいうまでもない。しかも本件の場合の対外競技会はいずれも地方教育行政機関たる市町村教委もしくは学校体育団体の主催または関係競技団体の共同主催のものであり、多年にわたつて参加しているものである。具体的に対外競技会において引卒した教師は、参加生徒の指導監督などをはじめ、競技の進行協力など勤務時間を超えて勤務することが多いことは特に説明を要しない。

(事実たる慣習について)

教職員の時間外勤務に対しては時間外勤務手当を請求しないという事実たる慣習の存在は争う。そのような慣習があるとしても、右慣習はそれ自体、労働基準法の労働者保護規定を、労働者が請求しないという事実により無効視することになるから、明らかに公序良俗に反するといわなければならず、被告の主張はそれ自体失当である。

別表1、2〈省略〉

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